中国のアメとムチ作戦が大失敗。台湾・蔡英文総統「圧勝」の意味:まぐまぐニュース!

投稿日 :2020年1月19日

中国のアメとムチ作戦が大失敗。台湾・蔡英文総統「圧勝」の意味:まぐまぐニュース!
https://www.mag2.com/p/news/435640
by 黄文雄『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』
2020.01.19

1月11日に行われた台湾の総統選挙は、現職で反中派の蔡英文総統が最高得票で圧勝し再選を果たし、与党民進党も過半数を維持しました。メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』の著者で台湾出身の評論家・黄文雄さんがこの選挙について解説。中国にとって予想外の選挙結果は「中国への恐怖心」と、香港のデモで「台湾の若者が目覚めた」ことによると説明。選挙前の不審なヘリ墜落事故などもあり、この結果を受けた中国の動きを警戒しています。

※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2018年12月30日年末特別号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。


中国の目論見がことごとく外れた台湾総統選

●台湾のヘリ墜落は中国の斬首作戦か台湾の国政選挙は予想外に民進党の圧勝でした。やはり、マスメディアで言われている通り、この結果には次の3つの要因があったのではないでしょうか。

1つめは、親中派が政権を取れば、台湾にとって「最後の選挙」になるかもしれないという危機感、2つめは中国への恐怖心、3つめは香港の反中デモの影響。とくに2つめの要因である「中国への恐怖心」が、国民党および国民党候補への投票をためらわせた結果、韓国瑜が落選したというわけです。

そもそも彼は大衆迎合型の人で、国民党候補になった時点で国民党主流派からは敵視されていました。アメリカからも要警戒人物と目されていましたが、人材不足に悩む国民党は彼を候補にするしかなかったのでしょう。しかし、結果的には「中国の威を借る韓国瑜」というイメージのまま敗北に至りました。

オーストラリアで逮捕された中国共産党のスパイによると、中国政府から韓国瑜に渡ったカネは2000万人民元、日本円で約2兆円以上だということです。さらに、中国政府は台湾に対して軍事恫喝のほか、「恵台」として台湾にも恩恵を与える26項目の条文を(31項目とも言われています)定め、アメとムチ作戦で翻弄しようとしていました。

しかし韓国瑜は負けました。習近平が支援していた候補者が負けたのです。これを理由に、かつてのフルシチョフのように、習近平が党内で突然解任される可能性も否定はできません。中国政府の今後の動向が気になります。


台湾は香港を見ていた

台湾の多くの若者は第二の香港になるのを恐れて蔡英文に投票したのでしょう。香港でデモをしている学生たちは、香港返還後に成長した若者たちです。中国の愛国教育をより受けているだろうと思われる世代が、中国に対して強烈な拒否反応を示しています。この点について日本では、詳しく述べることはタブー視されているのか、マスメディアであまり語られることはありません。

さらに、台湾の立法委員の友人に確認したところ、習近平は香港の青少年を大量に死に追いやっているとのことです。12月初頭の時点で聞いた死者の数は1537人でした。このことについても、日本のマスメディアでは一切触れられていません。そうでもしなければ習近平を国賓として招くことができないのでしょうか。

今回の選挙では、諸外国から台湾に多くのメディアが取材に来ました。最も多かったのは日本のメディアです。日本人が台湾の国政選挙に関心が強い理由は様々あります。そのひとつは、やはり中国の脅威に対する危機感でしょう。台湾の次は沖縄、そして日本本州が中国に狙われるという危機感です。

現在、台湾海域を通過する日本の輸送船は、1日平均200隻にものぼります。いわゆるシーレーン問題ですが、このシーレーンにおいて日本と台湾は運命共同体なのです。

冒頭に挙げたニュースは、軍事評論家の用田和仁氏によるものです。選挙前の台湾で、軍の参謀総長が乗ったヘリコプターが墜落し、同乗していた8人が死亡する事件がありました。用田氏は、これはもしかして中国からの警告だったのではないかと分析しています。中国が本気を出せば蔡英文など簡単に葬り去ることができる。中国は台湾を決してあきらめない、といったメッセージだったのではないかというのです。もちろん証拠は何もありません。ただ、その疑いがあるとうことです。

このことは私も想定していました。蔡英文のイメージダウンを狙ったと同時に、蔡英文が優勢を維持する選挙戦に水を差すことが目的の事故だったのではないかと。

しかし、それでも選挙結果は予想外に民進党の圧勝でした。台湾は、ここで一皮むけました。統一か独立かの選択をしたも同然です。これからの台湾は選択した道をひたすら前進するのみです。もう後退することはありません。


台湾はどの方向に向かっていくのか?

今回の選挙の結果が出た後、台湾では様々な変化がありました。国民党が大敗したため、党主席の呉敦義氏が辞意を表明しただけでなく、中国との関係をも見直す「政策変更」もあり得ると示唆しました。

そもそも国民党は、国共内戦に負けてから蒋介石親子までの時代は「反共」を国策としてきました。その後、蒋経国の時代になると台湾人の本土化や民主化が促進する危機感から中国に依存せざるを得なくなったのです。そんな状態が長く続き、国民党は腐敗していった結果、政権は民進党に奪取されたわけです。いまだに国民党の存立の基盤までが「中国依存」では、今後永遠に政権を取れないでしょう。

香港市民は、台湾に「国政選挙」があることに対して羨望のまなざしを向けています。その香港のお陰で台湾の若者も政治に目覚め、今回の結果を生みました。これを機に今後、香港と台湾の若い世代はますます「一蓮托生」の時代になっていくでしょう。

NHKが台湾の選挙結果についてのニュースを流している間、中国国内ではNHKのテレビ映像と音声が消され、画面は真っ黒だったそうです。おそらく、中国政府や中国共産党にとっても予想外に民進党が大勝したのでしょう。

このニュースは、国民が言論統制とデジタル管理下にある中国では触れることができません。新華社の報道は、民進党の「不正」ばかりを伝えていました。しかし、そんな報道は中国でしか通用しません。

また、南京軍区をはじめとする人民解放軍が表明した考え方は滑稽でした。「台湾人がますます祖国中国から離れていく」というのです。彼らは、中国共産党こそ真に「天意」「天命」を受けた祖国を守る党であり、人民解放軍は世界人類を解放し、「台湾を解放」する「歴史的使命」を達成するために、武力行使を本気で考えているのでしょう。

しかし、中国の「常識」は世界の「非常識」です。台湾の民意は世界の民意の一環として動いていることを彼らは知るべきです。