中国が台湾のWHO総会認めず国際機関を私物化 「中国台湾省」と呼んだマーガレット女史 : 産経ニュース

投稿日 :2017年6月19日

中国が台湾のWHO総会認めず国際機関を私物化 「中国台湾省」と呼んだマーガレット女史
http://www.sankei.com/premium/news/170618/prm1706180018-n1.html
2017.6.18 18:00

 台湾当局は、5月下旬にジュネーブで開催された世界保健機関(WHO)の総会に出席が認められなかった。中国の反対によるもので、民主進歩党の蔡英文政権が中国が主張する「一つの中国」原則を受け入れていないことへの圧力の一環だ。中国当局の一連の言動は、国連の専門機関をあたかも自国の政府機関の一部のように扱う横暴さの一方で、自国の論理をWHOに巧妙に潜り込ませる周到さを感じさせた。(6月6日の記事を再掲載しています)

1年前に伏線

 「台湾地区が今年、出席できない責任は完全に民進党当局にある」

 中国で対台湾政策を主管する国務院台湾事務弁公室の安峰山報道官は5月8日、こう述べた上で、その原因は「民進党当局が『一つの中国』原則を体現する『1992年コンセンサス(合意)』を認めない」からだと台湾側を責めた。

 この日はWHO総会への出席申手続きの締め切り日。8年間連続で届いていたオブザーバー参加の招待状が届かず台湾当局がいらだちを見せる中、中国政府自らWHOへの圧力を間接的に認めた形だ。

 伏線は昨年のうちに敷かれていた。総会出席問題が浮上したのは、92年合意を積極的に主張し2009年から「中華台北(チャイニーズ・タイペイ)」名義でオブザーバーとして出席が認められていた中国国民党の馬英九政権から、合意を認めない民進党の蔡英文政権への交代直前。招待状を受け取るのは馬政権だが、出席するのは蔡政権という微妙な時期だった。


 昨年の総会直前の5月6日、WHO事務局はマーガレット・チャン(陳馮富珍)事務局長(69)名で、招待状を発出。その中で、国連総会決議2758号(1971年)とWHO総会決議25・1(72年)に言及し、「これらに反映されている『一つの中国』原則に即して」、台湾の参加を認めるとした。

 両決議は、国連とWHOにおける中国の代表権を「蒋介石の代表」、すなわち「中華民国(台湾)」から「中華人民共和国」に変更することが記されているだけで、中国が主張する「一つの中国」原則にも、その原則のうち「台湾は中国の不可分の一部」という主張にも一切、言及していない。主要国は中国との国交正常化に際し、この原則を「認識する」(米国)、「理解し尊重する」(日本)としているに過ぎない。にも関わらず、国連の専門機関であるWHOの事務局が中国政府の主張を公文書に採用した。招待状を出すことで馬政権の顔を立てると同時に、翌年以降の蔡政権の出席を難しくする巧妙な伏線といえ、台湾の外交部(外務省に相当)は「一方的な主張だ」と反発した。

 事務局長のチャン氏は香港出身で、2007年から事務局長を務める。事務局長選では中国の支援を受けたとされ、11年5月には、内部文書で台湾を「中国台湾省」と呼んでいたとして、台湾当局が抗議した経緯がある。


 日米やカナダ、欧州諸国などが台湾の招待に前向きな意向を示す中、中国の台湾事務弁公室の安報道官は同じ今年5月8日の発言で、台湾の国際組織への参加問題は「両岸(中台)の協議を通じて手配されるべきだ」とも述べ、あたかもWHOではなく中国政府が決定すると言わんばかりの姿勢を示した。今回の総会をめぐるWHO事務局内の意思決定過程は明らかになっていないものの、中国政府がチャン氏を通じて台湾の出席を妨害したという推測は成り立つ。

来年以降に期待

 一方の台湾側も、今回の総会出席は難しいと見越してチャン氏が6月末に退任するのを待ち、来年以降の出席に望みをつないでいた節がある。

 台湾側は5月9日、中国を非難する声明を発表。WHO事務局に対しても「WHOは世界の各個人の健康と福祉のために存在している」とし、台湾を排除することは「WHO憲章の精神に違反する」などと批判した。

 台湾は03年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行で、当時はオブザーバー参加していなかったWHOからの情報提供を拒否された苦い経験がある。当時を知る日本の外交関係者は、台湾で流行していたウイルスの情報の入手に苦労し、加盟国にも影響があったと打ち明ける。


 だが、台湾当局は今回、総会に出席できないことで、具体的にどのような不利益が生じるのかについて、明確な説明はしなかった。総会に出席できない場合を想定し、世論の混乱を避けるためダメージコントロールをしていた可能性がある。

 蔡政権は陳時中衛生部長(衛生相)らをジュネーブに派遣した。陳氏らは59カ国の代表団と個別会談を行い、14カ国が総会の場で台湾の出席を支持する発言を行ったという。ただ、台湾が外交関係を有するのは21カ国。成果を強調する外交部の記者会見では、「なぜ半分しかないのか」との質問も出た。外交部は「地域性を考慮した」としており、ここでも全ての「国交国」からの支持取り付けにはこだわらなかったことが伺える。

 総会は7月からの次期事務局長に、エチオピアの元保健相を選出した。台湾の総会出席問題は仕切り直しともいえる。来年の出席に向け、台湾の「外交力」が問われる。(台北支局 田中靖人)

■国際保健機関(WHO)■ 保健衛生問題への対処を目的とした国連機関。1948年発足。感染症の撲滅や災害への援助、そのほか関連研究などを手がけ、最近では、世界に広がった新型肺炎(SARS)や鳥インフルエンザなどの対策を進めた。