中国が台湾総統選に干渉──元スパイの告白で「メディア操作」疑惑も浮上:ニューズウィーク日本版

投稿日 :2019年12月3日

中国が台湾総統選に干渉──元スパイの告白で「メディア操作」疑惑も浮上
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/12/post-13518.php
ニック・アスピンウォール 2019年12月2日(月)17時50分

<オーストラリアに亡命を求め、中国の工作活動を暴露した中国人男性。台湾政界も揺れ、外国勢力による浸透工作をめぐって与野党対立が激化している>

来年1月の総統選を目前にして、台湾政界が「中国の元スパイ」を名乗る男の証言で揺れている。

その人物は、オーストラリアで亡命を求めている王立強(ワン・リーチアン)という中国人男性。地元メディアによると、王は中国のスパイ活動に関与していたことを告白し、台湾や香港、オーストラリアでの中国の工作活動を暴露した。

台湾当局は11月24日、台湾を訪れていた中国系香港企業の幹部夫妻を事情聴取し、その後、2人の出国を禁止する措置を取った。夫妻が幹部を務める企業「中国創新投資」は、中国の浸透工作の隠れみのになっていると、王に名指しされていた(夫妻は否定している)。

王の告発によれば、中国は台湾や香港の政界やメディア、大学に大規模な浸透工作を仕掛けていたとされる。台湾の総統選で現職の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統に挑む野党・国民党の韓國瑜(ハン・クオユィ)候補の当選を後押しすることも工作活動の一部だったという。

先頃、ロイター通信の取材に応じた台湾の外交・安全保障当局者3人は、王が本当にスパイだったかは疑わしいとしつつも、告発の内容そのものは嘘と決め付けていない。王の主張に関して調査を進めていると、総統府も声明文で発表している。

一方、中国政府は王の主張を全面的に否定。韓は、もし中国共産党から金を受け取っていたら立候補を取りやめると表明した。

王によれば、宗教団体や草の根団体などに加えて、台湾のメディアも中国による浸透工作の標的になっている。中国政府に都合がいいように、台湾の世論を誘導することが目的だという。

王の証言をきっかけに、一部のメディアに疑惑の目が向けられている。大手企業グループ、旺旺集団傘下のメディアは既に、韓についての報道量があまりに多いことなどを理由に、国家通信放送委員会(NCC)から罰金を科されている。

この7月には、英フィナンシャル・タイムズ紙が旺旺集団に関する疑惑を報じた。記事によれば、旺旺集団系のメディアは、中国政府で台湾問題を担当する台湾事務弁公室から頻繁に電話を受け、報道内容について指示されているとのことだった(旺旺側はこの報道を否定)。


「反浸透法」で与野党対立

NCCは11月27日、安全保障関連の部局と協力してこの問題を引き続き調査する意向を表明した。メディアが中国から資金を受け取っていたかが調査の焦点になる。

王の告発が報じられた後、蔡の与党・民進党は直ちに「反浸透法」の制定を提案した。台湾政治への外国勢力の干渉を禁じることが狙いだ。これに対して、国民党は反対の立場を取っている。

この種の法律の必要性については、以前から民進党と国民党が激しく対立してきた。民進党は中国の浸透工作に対抗するために必要な法律だと主張しているが、国民党は言論の自由と民主主義への悪影響を理由に反対してきた。

過去に民進党議員が同趣旨の法案を提案をしたときは、野党だけでなく、国外からも批判を受けた。昨年6月に「フェイクニュース」を拡散する行為を処罰する法案が提案されたが、国際NGOの「ジャーリスト保護委員会(CPJ)」から厳しく批判され、法案は取り下げられた。

今回の「元スパイ」の告発により、総統選の行方や新法制定を取り巻く環境も変わるのかもしれない。