日本も他人事では済まぬ。台湾出身の評論家が警告する真の危機:まぐまぐニュース

投稿日 :2019年12月7日

日本も他人事では済まぬ。台湾出身の評論家が警告する真の危機
by 黄文雄『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』

https://www.mag2.com/p/news/428133
2019.12.06

香港では半年に渡り大規模なデモが続き、中国ウイグル自治区での人権弾圧に対して世界的な批判が沸き起こるなど、混乱の火種が尽きない東アジア情勢。そんな中で来年1月に総統選を控える「民主国家」台湾にも、さまざまな問題が見え隠れしているようです。台湾出身の評論家・黄文雄さんは今回、メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』で、歴史的事実や中国との関係、さらに先日訪れ目の当たりにした故郷の姿などを総合的に勘案し、「台湾の真の危機」をあぶり出しています。

※ 本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2019年12月4日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。


【台湾】台湾の真の危機を問う

11月末に台湾へ行ってきました。台湾では各界の友人や知人と意見交換をし、見聞を広めてきたと同時に、私自身の目で今の台湾についての分析をしてきました。今週のメルマガでは、そのことについて書きたいと思います。

2020年1月に予定している台湾の国政選挙は、「台湾危機」として捉える人がいます。それは十数年来、台湾が進んできた「民主主義」を失ってしまう危険があるからです。日本のシーレーン問題、沖縄・尖閣などの領土問題をも含む大きな危機です。

選挙の結果次第では台湾が「中国の一部」になる可能性があり、そうなった場合、日本にとっても安保の面で大問題となります。産経新聞社の『正論』という雑誌でも「台湾危機」として緊急増刊号が12月10日に発売される予定です。

しかし、真の「台湾危機」とは何なのか。「危機」というものは、顕在的なものもあれば潜在的なものもあります。長期的なものもあれば一時的、短期的なものもあります。前者については、例えば文化、文明的なもの、国家、民族的なものである「文化、風土」などの、長年にわたって累積された問題です。

2018年に台湾で行われた「九合一」地方選挙では、台湾の旧勢力である国民党が勝利しました。しかし今回の選挙では現在のところ、支持率調査によると国民党候補は劣勢と言われています。しかし、この支持率調査の仕方に問題があると国民党候補の韓国瑜氏が異論を唱えています。民進党は、選挙での優勢を示す根拠としてよく支持率調査の結果を持ち出してきますが、そもそもその調査は民進党支持者を対象にしたものではないかというのです。

韓国瑜氏は、支持率調査依頼の電話があっても拒否して下さいとフェイスブックで呼びかけています。これに対して民進党陣営は、もちろん支持率調査の正当性を主張しています。こうした問題が起こること自体、まさに選挙戦真っただ中といった感じです。

しかも、台湾の選挙では、支持率の結果が選挙結果と必ずしもイコールではないことが多々あります。そこには台湾の伝統的な風習と言っても過言ではない「地下賭盤」と言われる「選挙賭博」があります。これが結構、選挙結果を左右するほどの影響力を持っているのです。「民意」よりも「賭盤」が選挙結果を決めるとさえ言われています。一説によると、中国共産党が国民党候補を勝利させるために賭博を煽っているとの噂もありますが、真偽のほどは定かではありません。ただ、選挙とカネは切っても切れない関係にあるのは確かです。

日本では、賭博といえばパチンコ、競馬、競艇などがありますが、台湾ではそれらは禁止されています。台湾の合法的な賭け事の代表は「楽透(ロト)」でしょう。しかし、ロトだけでは退屈なのか、台湾では非合法の「地下賭盤」も大人気です。近いとろことでいえば、今年10月に行われた「2019アジア野球選手権」の結果についてなど、スポーツ関連も多く行われています。

選挙についての予想が難しいのは、この「地下賭盤」の存在が大きいからでしょう。


愚民、奴化教育の真相

戦後日本の教育とマスメディアは、ほとんどが「反日日本人」によって牛耳られてきました。ただ、日本がGHQ支配下だったのは戦後7年あまりのあいだだけでしたからこれだけで済みましたが、台湾は違いました。台湾は、司法、軍隊、警察、公務員など、国家の根幹をなす全ての要素を国民党に牛耳られてきました。蒋介石親子による独裁専制が長期間にわたって敷かれてきたのです。

この独裁専制時代を経験している戦前世代の台湾人は、日本がGHQに占領されたことにさえ羨ましさを抱いたものでした。GHQと国民党の文化レベルがあまりに違ったからです。

中国政府にとって理想的な人物像は、「奴隷」か「愚民」です。そのため中国で行われている教育は、「愚民化」「奴隷化」教育です。民に「知恵」を与えると天下を取られてしまうため、「由らしめる」のみでよいとして、愚民化教育を行ってきました。

戦後70年以上が経過しても、日本に「教科書問題」があるように、教育を変えるのはとても難しいものです。台湾では、李登輝時代から「教育問題」に取り組んできました。

私は、大学関係の仕事で台湾の教科書問題について現地調査をしたことがあります。国民党政府は、国民党員のみを学校長にしてきました。それ以外の立場の人は排除したのです。李登輝時代になってもなかなか改善されませんでした。

現在、民進党政権下でも立法院(国会)の過半数が民進党になっても、なおも教育と司法は国民党に牛耳られ、軍事と外交も指一本触れさせません。

表面的には民進党政権でも、裏では国民党がなおも一大勢力として存在しているのです。これは約2,000年前の漢の時代からある「陽儒陰法」「外儒内法」と同じく、表と裏の二重支配です。


台湾の真の問題とは

政策や経済を変えていくことは難しくないが、文化、風土、伝統、風習などを変えることはとても難しいものです。

去年、台湾・高雄市の民間団体による主催で、日本統治時代の1944年10月12日からアメリカ軍が台湾中部の都市に対して行った「岡山大空襲」についての70周年記念集会が行われました。岡山は私の故郷であり、私は空襲の生き残りとしてメインスピーカーとして呼ばれたのです。

主催者の調査によると、アメリカが台湾に投下した爆弾の40%があの空襲で落とされたそうです。なぜなら、岡山には当時、日本帝国海軍最大の南進基地である海軍航空部隊があったからでした。

私が台北で宿泊したホテルには、中国から集まった民主活動家各派の会議がありました。私はその参加者の一人に、中国は「国のかたち」からすれば「絶対に、そして永遠に、民主化は不可能だ」との私見を伝えました。より分かってもらうため、ローマ共和制からローマ帝国の例を引用して話ました。ローマ帝国は、民主共和制から領土が拡大するにつれて、民主、独裁、皇帝制へと発展していったという例を挙げて説明したのです。

20世紀に入って、西洋だけでなく日本までもが開国維新時代となりました。国民国家となり、「国のかたち」を変えていき、「列強」にもなりました。

しかし、「国のかたち」を変えるのは決して容易なことではありません。中国は、20世紀に入って、武昌の軍事クーデターである『辛亥革命』を境に、帝国から中華民国、中華人民共和国と3度にもわたって「国体」を変更しただけでなく、毛沢東とトウ小平、習近平のそれぞれの時代においても、人民共和国の政体は決して同じではありませんでした。

あの当時、毛沢東が中国を飛び越えて世界革命と社会主義社会を夢みたことは、決して「夢のまた夢」ではなかったのです。それは、トウ小平時代の全体主義としてのファシズムや、現在の習近平が掲げる「中華復興」という、先祖帰りの儒教的全体主義とも違うものでした。


台湾の現在と未来について

私が見た台湾の現在は、「統一」を目指す人々も「独立」を目指す人々も共有の発想を持っています。それは、双方とも「一元化」を目指す傾向があるということです。台湾のような小さな島でも、言語や文化など様々な領域にわたって多様性があるにもかかわらず、それを認知し許容する考えが欠けています。そこが台湾の壁ではないでしょうか。共生や衆生などの多様性を守るという精神がない精神的貧困からくるものでしょう。

友人のなかには、民進党のような台湾人政党が最低20年以上続けば、台湾内の多様性がもっと認められるようになるのではないかという意見もありました。これからの台湾は世界の人々と協力し、世界の一員として社会的役割を果たし、国家や国益を超えて貢献することが求められてくるはずです。

「香港の今日は明日の台湾」とは私は考えていません。それはそもそも社会背景が違うからということもありますが、いまの中国が22世紀まで生き残れるとは思えないからです。

人類は今でも様々な課題を抱えています。中国も台湾も「それぞれ」の問題を抱えているのであって、同じ問題を抱えているわけではありません。